君と見る青い月


その日は久しぶりに隊務が早く終わり、窮屈な隊服を脱いで袴も履かずに襦袢姿で部屋でくつろいでいた。
一週間前の雪が嘘のように今夜は暖かい。そういやもう春なんだなぁ、などと柄にもなく季節の移り変わりに思いを馳せる。と、部屋の外から「沖田さん、沖田さん」と小声で私を呼ぶ声がした。そっと障子を開けると、永倉が酒瓶を抱えて廊下に立っている。私の姿を見ると「あれ?もうお休みでしたか」と申し訳なさそうに眉を下げるので、丁度一杯やろうとしていた所だよ、と言えば「ああ、良かった」とそりゃあもうニッコリと花が咲くように笑うもんだから、なんだか嬉しくなって私もつられて笑った。
「今日は暖かいし、此処で飲みませんか?」と永倉は中庭に向かって座る。こんな格好で飲んでんのが見つかったら、あの土方(バカ)にまた小言を言われるじゃねーか、と部屋に促したが永倉は「でも月が綺麗なんですよ」と言って動こうとしない。別にあの土方(バカ)の言うことなんざ端から聞く気はないが、せっかくのいい気分を邪魔されるのは面白くない。どうしたものかと思案していると、永倉が小さく笑って「それに、」と言葉を続けた。「土方さんなら来ませんよ」どうして?「それは内緒です」悪戯っ子のような笑み。それはいつもなら私の専売特許で、永倉にしては珍しい。土方を貶めるなんざやるもんだ、是非その方法をご教授願いますよ。と言いながら隣に座る。「別に貶めたわけじゃありませんよ。沖田さんじゃあるまいし」言うようになったな、ぱちのくせに。「これくらい言えなきゃ真選組(ここ)じゃやってけませんよ」ふてぶてしい。なんだかんだ言って、永倉が一番神経が図太い気がするよ。私ゃどうも打たれ弱い。あんたと私、足して割ればちょうどいいのに。
空を仰ぎ見たら、綺麗な満月が出ていた。
「ね?綺麗でしょう」なんで得意気なんだよ。お前が作ったわけじゃあるまいし。てか、なんで月見?月見ったら秋だろーが。「今日の月は特別なんですよ」特別って何が?「特別は特別です」なんだよそれ。「いいじゃないですか。特別な月を沖田さんと一緒に見たかった。それだけですよ」なんてさらりと言ったけど顔が赤い。慣れない事言うんじゃないよ、馬鹿。こっちまで照れくさいじゃないか。赤くなった顔を誤魔化すように酒を煽った。
月なんかより、特別を私と共有したいと言った、永倉のその言葉と私に向ける笑顔の方が、私にとっての特別、なんて。思っても絶対に言ってやらない。




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蒼已様より永沖文です、ありがとうございました!!
m(≧∀≦)m


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